後ずさりしながらドミニオン

Nous entrons dans Dominion à reculons.

海辺第二版 日本語版レビュー

発売翌日くらいには届いていたけど開封する気にならなかった海辺第二版を整理した。

整理用のネームシートに書かれた船乗りのコスト間違いは全言語共通らしいです。さて、翻訳チェックをしていきましょう。

 

 

ルールブック

さきにこちらから*1。FAQ画像の入れ替わり以外に、気になったところが2点ある。

 

船乗り(6頁)

「また」の前に訳し抜けがあり、並列関係がおかしくなっている。

原文 (p. 5)

If you gain a Duration card in your Buy phase, Sailor can play it, even though it's your Buy phase. If such a card gives you +Actions, that doesn't let you play more Action cards in your Buy phase; if it draws Treasure cards, you can only play them if you haven't bought any cards yet.

『移動動物園』や『同盟』に慣れた人は知らないかもしれないが、ふつうアクションカードはアクションフェイズに使用する。船乗りを使えば購入フェイズに使用することができるので、注意すべきことを教えてくれている。HJ訳ではボケている気もするが、1文目の強調点は ”even though it’s your Buy phase.” にあるはず。

訳:〔……〕ただしその効果で+アクションを得るとしても、購入フェイズにさらにアクションカードを使用できるわけではありません。また、〔……〕

 

密輸人(6頁)

「例えば、」の前に訳し抜けがあり、状況に例示が対応していない。

原文 (p. 6)

The gained card does not have to have been bought by the other player, just gained; for example you can gain a copy of a card they gained with their own Smugglers.

相手の獲得手段は問わないよというところ。

訳:獲得するカードは、相手が購入したカードでなくても獲得していたものであればどれでも構いません。例えば、〔……〕

 

こんな訳し飛ばしより

内容面がおもしろいです。「ターンの例」の戦略的・ルール的複雑度が、求める3倍くらい高い。

・船乗りA使用→封鎖で船乗りB獲得→Aの効果で即使用→脇に何もなくなった封鎖はそのターンに捨て札になる

持続カードの捨て札タイミングを覚えたね!

・購入フェイズに策士購入→Bによって即使用

進行の例なのに船乗り策士コンボ決めてる!

持続が増えて初版よりだいぶカードの複雑度が上がったと思うんですが、ここまでカバーしていれば初心者でもすんなり入っていけそう。

 

カードテクスト

3点ある。

 

原住民の村

たいしたことじゃないけど、セミコロンとコロンの使うべき場所が逆。

 

宝物庫

このターンのあなたの購入フェイズの終了時、あなたがこのターンに勝利点カードを獲得していない場合、〔……〕

あ。

原文

At the end of your Buy phase this turn, if you didn’t gain a Victory card in it, [...]

誤り。in itの代名詞が指すものは「〔今まさに終わるあなたの〕その購入フェイズ」であり、「このターン」ではない。

探査の裁定にはじまり商人ギルド(新)を経てこのカードへ、そして隠遁者(新)にまで流れ込んでいる期間指定である。改訂カードばかりじゃないか。

購入参照の旧版なら購入フェイズ外に範囲を広げても闇市場に引っかかるくらいだった。実際は獲得参照に変わっており、誤訳のまま遊ぶと工房で屋敷を獲得しただけで引っかかるなど、このうえなく使いにくいと思う。悪いのはエラッタじゃないか。

実は向こうでも、itが指すものは何ぞやという質問をよく見かけるので、どうやら原文の側に難があると言えそう……だが

それもルールブックにアクセスしにくい状況下の話。FAQに購入フェイズ外の事象を参照しない旨わかりやすく説明されている。つきあわせれば正確に訳すチャンスはあったんじゃないかな。

 

前哨地

このターンの後に追加の1ターンを得て、追加のターンのための手札は3枚しか引くことができない。

審議。

原文

[...] then take an extra turn after this one, and you only draw 3 cards for your next hand.

「追加のターンのための」を「前哨地の追加のターンのための」と読まれると困るが、追加ターンを与える他の効果のことまで考慮すべきかどうか。

3枚制限は前哨地を使用したターンのクリーンアップフェイズに対する制約で、そこから例えば使節団による追加ターンを先に処理すると、使節団ターン(手札3枚で、購入不可)→前哨地ターン(手札5枚、無制限)と続く。

よくこの説明すると驚かれるけど、確かに大半の人には関係なさそうだし、FAQもそういう極端な例は書かないことにしているというからいいとして。カードテクストには工夫してもらえるかなと、ちょっと期待してたのでした。

 

ドミニオンオンラインはこう。

クリーンアップフェイズに3枚のみカードを引き、このターンの後に追加の1ターンを得る。

出来事の起こる順番に並ぶようにしている*2。頭に「このターン」をつけたほうがいいのはそれはそう。

 

英語がスペース節約のために使っているnext handが曲者だなあと思う。handという集合あるいは領域とa card in your handという一枚いちまいが日本語にすると「手札」という同じ言葉になってしまうのだけど、その弊害を避けるために訳すと長くなりがち*3

 

まとめ

宝物庫だけは注意が必要。そのままでも遊べるけどどうなんでしょうね。

そうだ、『同盟』で中央揃えにされていたカードテクストは両端揃えに戻っていた。こっちのほうがきれいに見えて好ましい。

 

 

*1:英語版のルールブックはRio Grande Gamesの製品ページにある。

*2:まじぽにさんの功績。

*3:ドミニオンオンラインだと、旗で「クリーンアップフェイズ中」と明記したり、狩猟小屋やモグラで「手札すべて」を捨て札にすると明記したり。