後ずさりしながらドミニオン

Nous entrons dans Dominion à reculons.

オンライン訳こぼれ話 ~ShyとかTirelessとか~


発売されたばかりのPlunder(オンライン訳で『劫掠』)ですが、オンラインの訳をやりました。この記事ではカードテクストの訳について試行錯誤したことをいろいろ書いてみます。とりとめのない雑談です。誰向けなんだろう。オリカ作成中でよりよいカードテクストに仕上げたい人向け?

 

この記事はドミニオンアドヴェントカレンダー2022の12月21日分です。#ドミニオンAC2022

adventar.org

 

 

前提

ドミニオンオンラインの訳はどの言語も有志のプレイヤーがやっています。私の場合は教会&船長のときにまじぽにさんから引き継ぎました。というわけでホビージャパン訳とは翻訳の方針や取り決めが(もちろんタイトルも)異なります。

 

Shy

まずは内気な特性を取りあげたいと思います。原文はこう。

At the start of your turn, you may discard one Shy card for +2 Cards.

最初これを読んだとき、ターン開始時に何枚でも捨てられるつもりでいました。特性はサプライのある山にくっついてカードに修正を加えるよ、と言われたうえでこれを見て、同じように考えた人は他にもいるんじゃないかな。

 

作業に取りかかりサクッと訳してみました。

あなたのターンの開始時に、手札の内気なカード1枚を捨て札にしてもよい。場合、+2カードを引く。

これだと何回でも実行できる気がする。ということで手直し。

あなたのターンの開始時に、手札の内気なカードのうち1枚を捨て札にしてもよい。そうした場合、+2カードを引く。

手札に持っている内気なカード全体から1枚だけというニュアンスを出したつもり(出てなかったらごめんね)。

 

思えばルネサンスの輪作のときもはじめ、何枚でも捨てられるように勘違いした記憶があります。

At the start of your turn, you may discard a Victory card for +2 Cards.

あなたのターンの開始時に、勝利点カード1枚を捨て札にしてもよい。〔…〕

そらできるなら手札の勝利点全部研究所にしたい。もちろんそれは正しくない。ドミニオンでWhen X, do Y.という誘発の効果は、「Xが1回起きるたび、Yを1回だけ行う」という暗黙のルールがあります*1。At the start of your turnという誘発条件でも同じです。だから内気な特性でもYができるのは1回、1枚だけです。

 

もし特性がカードの状態を変更するもので、習性のように適用するカードをthisで呼ぶ、つまり

At the start of your turn, you may discard this for +2 Cards.

だったらカード1枚1枚がこの効果を持つので、すべて捨て札にできていたでしょう。カードの状態上書きによる効果の追加ではなく――見かけに反して?――ランドマーク的な、ゲーム全体に対するささやかなルールの追加という趣があります。

 

気さくな特性もShyと同様の訳にしています。

At the start of your Clean-up phase, you may discard a Friendly card to gain a Friendly card.

あなたのクリーンアップフェイズの開始時、手札の気さくなカードのうち1枚を捨て札にしてもよい。

しかしなんでShyの方はone Shy cardなのか。aを使わないということは「1枚」に力点があるはずだけど、この2つに差が出る理由は正直よくわからない。

 

Tireless

一方で今回「1枚」という記述をあえて書かないでおいたカードもあります。例えば疲れ知らずの特性。

When you discard a Tireless card from play, set it aside, and put it onto your deck at end of turn.

疲れ知らずのカードを場から捨て札にしたとき、それを脇に置き、ターン終了時に山札の上に置く。

これを

疲れ知らずのカード1枚を場から捨て札にしたとき、それを脇に置き〔…〕

とすると、何枚あっても1枚しか山札の上に置けない気がする。前から獲得後移動の効果についてこれを考えていて(今回変えたわけじゃないけど)、例えば移動遊園地は

このターン、あなたがカード1枚を獲得したとき、山札の上に置いてもよい。

ですが、1購入で1回きりに感じるので、あんまり好きじゃない。やはりWhen X, do Y.なのでXが起きるたびに発生するのですが。わざわざ枚数を明記しないほうが意味を伝える上でプラスに働く気がしています*2

 

ちなみに配達でeach timeが史上初めて使われています。

This turn, each time you gain a card, set it aside, and put it into your hand at end of turn.

ドミニオンのルール的には

This turn, when you gain a card, set it aside, and put it into your hand at end of turn.

でいいはず。たぶん同じ拡張セットに突貫工事や鏡写しという購入後1回だけ(「次に」)有効な効果があるので、それと明確に区別できるようにしているのでしょう。

 

 

最後に。場から捨て札にするときといえば、思い出すのは画策。2016年版以降は

This turn, you may put one of your Action cards onto your deck when you discard it from play.

けっこう個性的ですよね*3。one ofが大事。前後を入れ替えようとして

This turn, when you discard an Action card from play, you may put it onto your deck.

としてしまうと画策1枚ですべて積み込めてしまうので、

Once this turn, when you discard an Action card from play, you may put it onto your deck.

になるはずです。オンラインの日本語訳は

このターン、場のアクションカードのうち1枚を捨て札にしたとき、それを山札の上に置いてもよい。

です*4。Shyで使ったトリックがここでも見つかりました*5

 

終わりに

うまく組み込めなかったんだけど、どうやら記事を書いてみて思ったのは、プレイヤーの期待を想像して裏切らないように、さらに期待を誘導してルールに沿う動きをさせるように、テクストを書かんとあかんなあ、ということのようです。

さてさて、オンライン有志訳は印刷されていないのでいつでも修正できるのが利点。コミュニティ内で改良していきたいです。いつも助かってます(ホビージャパンは労力も責任も大きいだろうし大変よね)。かといって雑に仕上げたくはないので、ふさわしく長く使えるものを最初に提示したいなと思う次第です。

 

 

 

 

*1:ときどき抜け道的な堀無限公開の論理がある。

*2:HJ玉璽版は「このカードが場に出ているかぎり、あなたがカード1枚を獲得するとき、そのカードを自分の山札の一番上に置いてもよい。」whileが「かぎり」と訳されていることで獲得のたびに誘発するような気がしてくる。この点オンラインの「間」という訳よりよいかもしれない。

*3:初版の画策はそもそもドミニオンのカードテクストとして一世一代のイレギュラーをかましているので変えなくてはなりませんでした。

*4:yourやyouの直訳がないのはオンラインの方針です。

*5:ちなみにHJの第二版は「このターン、あなたのアクションカード1枚を場から捨て札にするとき、それをあなたのデッキの上に置いてもよい。」です。